イカロスネットの成り立ち

医療介護の現場では、種々の職種が関わるため相互の意思疎通・情報共有が重要となる。
このために必要なのは、お互い顔見知りになること、そしてどこに誰がいてどのようなことをしてくれるのか、を知ることである。そのために築いたネットワークが「イカロスネット」であるが、その歴史は14年間にさかのぼる。

当時往診をする開業医は少なく、現在の在宅医療のような定期的に訪問診療を行うことは希であった。たまたま近人からの依頼で在宅診療をすることになったが、胃ろうによる経管栄養(PEG)が行われていた。PEGによる栄養管理は経験がなく、周囲に聞いてみたが詳しい人はいない。そこでPEG研究会などに出席し勉強を始めたが、在宅医療に必要な知識は他にも多くあり、一人で勉強するのは効率が悪いと気づいた。

そこで真嶋敏光先生と共に泉大津在宅医療研究会 iZakを立ち上げ、2000年10月から講習会、実技講習会を定期的に開催した。そこでは在宅医療介護の質を高めることはもちろん、講習会に参加する在宅従事者と顔見知りになることで、連携をやりやすくした。その後、忘年会(iZab)や飲み会(iZan)で親交を深め、より連携を密にしていくことが出来た。また在宅医療初心者のための入門書として、「在宅医療ハンドブック iZak版」を2003年12月(初版)と2006年3月(第2版)に発行し、さらなる質の向上を目指した。

在宅医療は、すべての従事者が主役となって進めていくものである。このことから、医師会真嶋先生の他、地域包括支援センター、ケアマネ協議会、訪問看護より世話人を選出し、事例検討会を始めることになった。この会では、それぞれの職種の考え方が理解でき大変評判となった。参加者も大幅に増えたため、これを機に「イカロスネット」と名付けた。

2012年より地域包括ケアシステムが始まっている。今後増加する高齢者に対応するためには、医療介護すべての職種が連携協力することはもちろんであるが、行政や市民との協力も必要となる。そのためには何をすべきか。他人からのお仕着せではなく、自ら考えアイデアを出してもらい実行していくようになれば、イカロスネットは今後も発展していくであろ。皆様の奮起をお願いする次第です。

泉大津市医師会 長野 正広

 

イカロスネット -iCalos net-とは
[iryou Caigo Local Suishin Net(医療介護地域推進ネット)]

イカロスとは、ギリシャ神話に登場する人物で、Ikaros,またはἼκαροςまたはIcarusと表記される。父と共に幽閉されたイカロスは、塔から抜け出すために鳥の羽を集め、それを蝋で繋ぎとめて大きな翼を作る。二人はその翼を背中につけ、空高く飛び立ち脱出に成功する。

あまり高く飛ぶと太陽の熱で蝋が溶けてしまう、と父に注意されていたが、調子に乗ったイカロスは空高く飛んでしまった。そして太陽に近づきすぎ、蝋が溶け、翼が壊れ、海に落ちてしまう。「イカロスの翼」は勇気の象徴ではない。

医療・介護の現場は過酷である。24時間いつ呼び出されるかわからず、重い人の介護に腰を痛め、膨大な書類書きに頭を悩まし、わがままともいえる要望に応えていく。それでも人の役に立っているという喜びと達成感から、つい仕事にのめり込んでしまい、その結果オーバーワークとなることがある。

人のお世話をするには、自身が心身とも健康でなければならない。医療・介護従事者は、決して働き過ぎることのないよう、自戒の念を込め、この医療介護ネットワークを「イカロスネット」と命名しました。